宮澤由江 訳 『どうか、お静かに 公立図書館ウラ話』
(文芸社・2012年10月)
原著:Scott Douglas.
Quiet, Please: Dispatches from a Public Librarian.2008.



カバーデザイン:宮澤由江

文化情報専攻 教授 松岡 直美

 本書は著者Scott Douglasの分身たるスコットが図書館の学生見習いから、図書館司書養成のための大学院で図書館学を専攻、修了して司書資格を取得し、公立図書館司書としてのキャリアに到達するまでの成長物語である。同時に、アメリカの、社会文化情報システムとしての図書館、地域社会における公共サーヴィスの理念と実践、そして専門職としての司書養成プロセスの紹介・解説書としても読むことができる。図書館を大学・研究機関や地域の教育と啓蒙の中核に据えるだけでなく、限りなく人々に開かれた場とし、さらにまた、これを維持する人材までも育ててしまう、アメリカの文化的豊かさを再認識させる教養書・良書である。
 しかし、それ以上に、カリフォルニア州アナハイムの公立図書館司書が語るもう一つのアメリカ物語というのが本書の真骨頂であろう。サリンジャーの語りやピンチョンのアメリカを想起するのは評者だけではあるまい。(ちなみに、著者はピンチョンに「ハマっている」とあとがきで告白している。)語り手/中心人物スコットは9.11以降の反動的アメリカから距離をおき、ホームレスや「モーテル家族」ら弱者に寄り添う。度々挿入される「図書館トリビア」や猥雑な表現は、既存の「歴史と知識のアーカイヴ=図書館」や「知識の案内人=司書」を揶揄しつつも、これを継承し、寿ぐという点においてポストモダン・フィクションに通じるものだ。こうした原著の本質的メッセージとスタイルを、宮澤由江さんは日本語に「翻訳」している。546頁という大著にも関わらず、カリフォルニアのはにかみ屋知識人の(日本語の)語りは読者を飽きさせない。アメリカ西海岸の英語だけでなく、アメリカの社会・文化についての理解とアメリカなるものに対する愛があってのことである。
 そう、宮澤さんの専門はアメリカ文化研究。文化情報専攻第9期生。2009年3月に、修士論文「小説と絵画のアイデンティティ:Paul Auster のNew York Trilogyとアメリカン・コンテンポラリー・アート」で修士号を取得された。そのリサーチのため、2008年夏、忙しい仕事の合間を縫ってニューヨークに滞在され、松岡も海外研究出張中であったので、一緒にMOMAやウィットニィなどの現代美術館をめぐり、Paul Austerの地元ブルックリンのパーク・スロープまで出かけたことなど、懐かしく思い出される。研究科修了後はグラフィック・デザイン事務所を主宰されながら、翻訳にも精を出しておられたようで、今夏のスクーリングで本書脱稿との嬉しいニュースを届けてくださった。これを好機とばかりに、同窓会設立準備委員会に引きずりこみ、同窓会ホームページの編集長に就任いただいた。ということで、このたびの同窓会正式発足に先行してのホームページ開設となったのである。改めてお礼申し上げる。

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